薬剤師が薬学的な知識を発揮できる職場は、様々なところに及んでいます。
そんな中、薬剤師がその専門性を発揮しながら働くことができる職業として、治験のサポートを行う企業があることをご存知でしょうか?
その働き方は大きく分けて二つ、治験施設支援機関(SMO)か開発業務受託機関(CRO)に所属することです。
この記事では、この似て非なる職場について、それぞれの仕事や年収などの違いについて解説します。
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治験施設支援機関(SMO)と開発業務受託機関(CRO)の違いとは?
SMOとCROは、どちらも治験を通して新たな薬や医療機器を開発するためのサポート業務を仕事としています。
ですが、その業務には細かな違いがあり、治験に携わる期間や受け持つ業務に違いがあるのです。
知らずに入社して、業務に携わってみてからイメージと違ったなんてことがないように、ここでその違いについて学んでおきましょう。
治験施設支援機関(SMO)と開発業務受託機関(CRO)の違い一覧
※スマホで見る場合は横にスクロールするとCROの情報も見れます。
治験施設支援機関(SMO) | 開発業務受託機関CRO | |
役割 | 病院と契約して治験の支援 | 製薬会社から新薬の開発を受託 |
依頼主 | 病院などの医療機関 | 製薬会社 |
勤務地 | 全国 | 都心部に集中 |
業務 | ・治験業務の支援 ・治験事務局業務の支援 ・IRBの設立・運営の補助 ・CRCの育成・派遣 |
・モニタリン業務の支援 ・データマネジメント業務の支援 ・統計解析業務 ・メディカルライティング業務 |
業種 | ・治験コーディネーター(CRC) ・治験事務局担当者(SMA) |
・臨床開発モニター(CRA) ・データマネジメント(DM) ・品質管理(QC) |
男女比 | 男3:女7 | 男4:女6 |
支援制度 | 時短勤務制度などを利用して働けることが多い | 子供が小さいうちはCRAではなく、QCやCRAサポート職などの事務系職種に異動して仕事を続けることが多い |
研修期間 | 2~3週間 | 1~2ヶ月 |
代表企業 | ・サイトサポート・インスティテュート ・EP綜合 ・ノイエス ・エシック ・アイロム |
・イーピーエス ・シミック ・クインタイルズ・トランスナショナル・ジャパン ・パレクセル・インターナショナル ・メディサイエンスプラニング |
同じような業務を行っている二つの機関ですが、比べてみることにより様々な違いがあることをご理解いただけると思います。
ただし、治験を通して社会貢献をしたいという信念は、どちらの機関にも共通して流れているものであり、どちらの機関が優れているといったものではありません。
自分の求める働き方、自分が携わりたい分野を明確にし、それに従事できる機関を選ぶことが大切となります。
治験施設支援機関(SMO)は病院の依頼を受け治験をサポート
SMOは治験を実施している病院からの依頼によって業務に従事します。
その職業柄、治験を行っている医療機関すべてが依頼元になりますので、日本全国で業務に従事することになるでしょう。
日本では平成10年より治験実施に関する厳格な規則を定めた法律(医薬品の臨床試験実施の基準に関する省令)が施行されており、治験を実施するにあたって、非常に煩雑な書類整備や手続きが必要になりました。
治験におけるこういった煩雑な事務処理を代行する役割を持っているのがSMOなのです。
開発業務受託機関(CRO)は製薬会社の依頼を受け治験をサポート
CROが契約するのは、新薬を開発している製薬会社となります。
製薬会社がスムーズに治験業務などができるようにサポートすることが業務の大半を占めているため、その職場は都市部に集中していますが、病院などでの業務も多く存在するため、場合によっては地方への出張もあり得ます。
試験実施計画書(プロトコル)の作成や、プロトコルの遵守・履行のために治験実施機関を訪問し、状況のモニタリングなど、治験が円滑に、かつ質の高いものとして運用されるように調整を行っている機関がCROなのです。
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治験コーディネーター(CRC)と臨床開発モニター(CRA)の違いとは
略称が酷似しているために、よく混同されてしまうのがCRCとCRAです。
SMOに所属しているのがCRC、CROに所属しているのがCRAという職種で、求められているスキルは似通っている部分があるのですが、実際に行っている業務はきちんと住み分けされており、お互いに協力しながら治験の円滑な進行を支えています。
治験コーディネータ(CRC)と臨床開発モニター(CRA)の違い一覧
治験コーディネータ(CRC) | 臨床開発モニター(CRA) | |
雇用主 | 治験施設支援機関(SMO)、病院 | 開発業務受託機関(CRO)、製薬会社 |
業務 | 患者と病院、製薬会社の3者間に立ちコーディネーション | 新薬の臨床試験がきちんと行われているかを病院を巡回してチェック |
給料 | 年収:300~800万円 平均年収:500万円前後 |
年収:400~1200万円 平均年収:600万円前後 |
残業時間 | 月に5~20時間 | 月に10~30時間 |
英語力 | ・英語力があると好ましい ・英語を話せる人は少ないので重宝がられる |
・グローバルプロジェクトを担当したり、外資系に勤めると英語の使用頻度は高くなる ・管理職レベルは英語が話せて当然レベル |
資格 | 看護師、臨床検査技師、薬剤師、管理栄養士 | 薬剤師、MR、看護師、臨床検査技師 |
年齢制限 | 35歳前後(CRC経験者は45歳前後) | 28歳前後(CRA経験者は50歳前後) |
その他 | ・時々スーツを着る ・5~10人前後の患者様を受け持つ ・事務作業が多い |
・基本はスーツ ・日本全国への出張がある ・5つ前後の病院を受け持つ ・移動が多い上、事務作業も多い |
治験業務を通じて様々な職種との協力関係が重要な両者の業務ですが、こうして比べてみれば、明らかな違いが見えてきます。
所属している機関の違いというだけでなく、携わっている業務、必要とされるスキルなども異なるっているのです。
CRCは治験がスムーズに進行するように医療スタッフとの調整役
CRCの仕事を一言で表せば、治験の調整役だといえるでしょう。
治験を実施している医療機関において、治験責任医師や治験分担医師の業務をサポートし、治験の被験者となる患者へのケアを行います。
医師の行う治験書類の作成補助のみではなく、被験者との関係性の補助なども業務の一つです。
CRCの場合、被験者とも密接にかかわっていくことが必要になり、被験者となる患者が適正であるのかの確認や、なにか問題があった場合の相談窓口的な役割を担い、服用状況に加えて残薬の回収などまで行います。
治験は保険適用とはならないため、保険外治療と保険治療の併用に関する作業までサポートするのです。
医師と被験者だけではなく、治験を円滑に進めるためにはコメディカルや医事課・事務局との連携も不可欠です。
治験に関わる業務に関して丁寧に説明し、滞りなく作業ができるように医療施設全体を調整する役割を持っているのがCRCという役割なのです。
薬剤師から治験コーディネーターCRCへ転職するには?仕事や年収も合わせて解説
CRAは治験がきちんと行われているかチェック・指導する監査役
CRAの業務は、治験が適正に行われているかどうかの監査役となります。
治験が開始される以前から、CRAの業務は始まります。まずは、治験を行うに値する医療機関の選定と、その責任者となる治験責任医師の選定です。
発売される新薬が適応となる疾病での経験を積み重ねている、実績のある医療機関・医師をピックアップし、作成したプロトコルでの同意を得ることが最初の山場となります。
無事に治験を開始してからは、適正に治験が行われているか、プロトコル通りに進められているかを適宜監査し、その都度医師や看護師、CRCと治験業務に対して指導・提案を行い、プロトコルの遵守を促進します。
最終的に症例報告書(CRF)を回収することで治験業務を終了としますが、終了後も書類のチェックや医師の終了業務のサポートなどを行います。
一つの治験が問題なく終了するまで管理・監査していく役割を持つのがCRAという役割なのです。
薬剤師から臨床開発モニターCRAへ転職するには?仕事や年収も合わせて解説
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CRCとCRAの年収と労働環境の違いとは?
現場で働いている薬剤師とは全く異なる業務を日々行っているCRC・CRAですが、その待遇や年収、労働環境はどうなっているのでしょうか?
同じ治験に携わっている仕事とはいえ、その労働環境や目指せる年収など、実は大きく違うのです。
治験コーディネーター(CRC)の年収・給料
CRCの年収
- 平均年収:500万円前後
- 平均給料:27万円
- ボーナス:100万円前後
CRCの給料は、決して高いとは言えません。地域によっては年収で250万円台という所も存在し、薬剤師という資格手当があることによって年収400万円程度は見込むことはできますが、調剤薬局などから比べれば100万円程度年収が下がることを覚悟しなければいけません。
ただし、英語力などのスキルを持ち、重要な仕事を任せられるような役職になった場合には、大きく昇給をしていく可能性があるのもCRCです。
成長段階の業界であるため、今後の発展によっては大きく状況が変わる可能性も秘めています。
CRCは残業が少なく福利厚生も充実しているため継続して働き続けられる
CRCとして働く利点は、その労働環境にあります。
CRCという職業柄、勤務地は治験が行われている病院となり、治験が実施されている時間帯の業務となります。つまり、基本的には日勤時間帯の作業となる為、残業が少なくなるのです。
ただし、これは企業によってもことなり、治験開始に関わる書類作りが重なった場合などには残業せざるを得ない状況も発生します。
それを含めても月の残業時間は5~20時間程度で収まっていることから、非常に働きやすい環境だといえるでしょう。
やむを得ず休日対応や残業が発生した場合には、手当などによりきちんとした対応を行っていますし、福利厚生が充実しているため、夏季休業も含めた各種休暇も取得しやすく、子育てなどとの両立もしやすい職業と言われています。
臨床開発モニター(CRA)の年収・給料
CRAの年収
- 平均年収:650万前後
- 平均給料:36万円
- ボーナス:120万円
CRAの年収は調剤薬局などに比べても見劣りするものではなく、企業によってははるかに高い年収を得ることが可能です。
しかも、役職や技能によってはさらに収入をアップさせることができる成長分野ですので、薬剤師として働いていくよりも圧倒的に稼げる職業だと言えるのです。
CRAはハードワークだが年収1000万も目指せる
CRAはその技能によっては、1000万円を超える年収を得ることも可能な職業であり、成長分野にあるためにその待遇は素晴らしいものです。
ただし、その給料に見合っただけのハードワークを課せられることが常態となっている点を忘れてはいけません。
繁忙期には残業は当たり前であり、月当たりに換算すれば50時間を超えることもあるのです。
全国にわたって業務を行うため、ゆっくりと落ち着ける時間も少なくなりますし、事務作業も非常に多くなります。英語の使用も当たり前にできなければ、1000万円を超える収入を得ることは難しくなります。
自分なりの信念と目標がなければ、CRAで成功を掴むことはできないでしょう。
CRCとCRAの転職活動と年齢制限の違いとは?
他の職業を経験してからCRC・CRAを志す場合、注意しなければいけないのが年齢制限の違いなどです。
たとえ臨床経験を持っている薬剤師といえども、治験を専門で取り扱う業務というのは未経験者としてのスタートです。
転職活動を行う時点で、どういった働き方を求めているのか、転職理由を明確にして活動をしていきましょう。
CRCになるには?SMOへ転職するためには?
実は、CRCになるために必要な資格などは特にありません。
ただし、CRCとして就職できるのは、基本的に医療系の資格を持っている人であり、ごくまれにそのほかの理系大学を卒業して製薬企業などで働いたのちに転職という例もありますが、あまり一般的ではありません。
看護師、臨床検査技師、薬剤師、管理栄養士、臨床工学技士、MRからの転職が多く、CRAから転職する例も存在しています。
CRCとして働いている人では、全体の約6〜7割が看護師と臨床検査技師としての資格を持っています。
年齢が高くても今までの就業経験をアピールできれば未経験でも可能
CRCの仕事は、治験実施期間中における医療機関内での調整役です。
ですので、それに適した職業経験や、有用なスキルを的確にアピールできれば、比較的年齢が高くなっても転職することが可能な職業です。
未経験者である場合は35歳まで、経験者である場合は45歳までが、CRCに転職する年齢制限の限界と言われています。
CRAになるには?CROへ転職するためには?
CRAとして働くために必要な資格は特に存在していません。
ですが、CRAとして働くためには、何かしらの医療資格を持っていることが暗黙の了解として求められています。
CRAの業務は医療に関する知識が必須であり、医療機関とのかかわりの中で、その内部事情をくみ取れることが求められているため、全くの素人が携わるのは非常に困難な業務なのです。
薬剤師、看護師、MR、臨床検査技師、CRCからの転職が多く、その中でも全体の6割が薬剤師とMR出身者で構成されています。
未経験者でCRAになるには早い決断が必要
CRAとして働くためには、早い決断が不可欠です。
経験がある場合では、その実績などによってある程度年齢が高くなっても受け入れてくれる企業はありますが、未経験者の場合では、業務委託元である製薬会社からの需要がなく、それによってCROとしても受け入れてくれなくなってしまうのです。
具体的には、未経験の場合には28歳まで、経験者の場合には55歳までが年齢制限の限界と言われています。
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まとめ:人の中で働くCRCか、全体を管理するCRAか
CRC、CRAは、どちらも世の中に新薬を送り出すための重要な仕事です。
治験実施機関の中に入って、円滑に進められるようにサポートを行うのか、全体を俯瞰してプロトコル遵守を促し、治験全体を管理するのかは、似ているようで全く違う仕事なのです。
その労働環境や年収などの待遇も、全く異なる働き方となっています。自分の携わりたい業務や、ライフプランを考慮し、自分に適した働き方を模索してみてください。
薬剤師から臨床開発モニターCRAへ転職するには?仕事や年収も合わせて解説 薬剤師から治験コーディネーターCRCへ転職するには?仕事や年収も合わせて解説