毎日数多くの患者さんが来局する調剤薬局、患者さんの個性も千差万別です。
しっかり会話してくれる患者もいれば、一言も話さずに薬局から出ていく患者もいます。
そんな中でも特に困るのが、支払いをしてくれない患者です。
どの薬局でも一定額の未収金がありますが、経営する側としては払ってくれないと困ってしまいます。
そこでこの記事では、薬代の未払い患者の対処方法について解説していきます。
あや
きよみ
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代金を支払わない患者でも調剤拒否はできない…
大前提として、代金を支払わない患者でも、薬剤師は調剤拒否することはできません。
その理由とは、薬剤師法に明記されている応需義務に基づきます。
調剤薬局はただのサービス業ではなく、法律上医療提供施設と位置付けられています。
すべての国民が公平に医療を享受できる環境を作るため、調剤薬局は調剤報酬において代金の大半を受け取ることができます。
顧客と企業という一般的な商業の形とは異なるため、正当な理由がなければ調剤を拒否はできないのです。
薬剤師に課せられる応需義務とは?
薬剤師に課せられる応需義務は、薬剤師法21条に定められているものです。
この義務は調剤業務に携わる薬剤師に課せられるものであるため、すでに仕事から引退し、免許があっても働いていない薬剤師には適応されません。
応需義務によって、患者が処方箋を持って薬局に来局し、調剤を求めたのであれば、正当な理由がない限りは拒否することはできません。
調剤の求めに応ずる義務:調剤に従事する薬剤師は、調剤の求めがあつた場合には、正当な理由がなければ、これを拒んではならない(薬剤師法21条より引用)
処方箋応需を拒否できる正当な理由とは?
それでは、どんな状況であれば処方箋の応需を拒否できるのでしょうか。
それは、法的に調剤できない場合と、物理的に調剤できない場合が当てはまります。
詳細は以下になります。
- 処方せんの内容に疑義があるが処方医師(又は医療機関)に連絡がつかず、疑義照会できない場合。ただし、当該処方せんの患者がその薬局の近隣の患者の場合は処方せんを預かり、後刻処方医師に疑義照会して調剤すること
- 冠婚葬祭、急病等で薬剤師が不在の場合
- 患者の病状等から早急に調剤薬を交付する必要があるが、医薬品の調達に時間を要する場合。但し、この場合は即時調剤可能な薬局を責任をもって紹介すること
- 災害、事故等により、物理的に調剤が不可能な場合
(薬局業務運営ガイドラインより引用)
この内容から考えれば、患者からの未回収金があったとしても拒否事由に当たらないことがわかります。
患者の対応が悪質で金額が高額でない限り、薬剤師法21条の正当な理由には当てはまることはないでしょう。
もっとも、拒否事由には患者の行動や金額の多寡は組み込まれていないため、これらが正当な理由と認められるかどうかも、怪しいところです。
つまりは、たとえ患者が代金を支払わないとしても、この義務を果たさなければいけないということなのです。
あや
きよみ
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調剤報酬の時効は通常の債権より短い3年
未回収金などの債権は、一定期間を経過することで時効を迎え、支払いの必要がなくなります。
取引の種別によって時効期間は定められており、個人間の借金や売買では10年間、通常の商売に関わる債権(家賃やNHK受信料など)は5年間で時効となり、支払い義務がなくなります。
対して医師、助産師、薬剤師の債権の時効は3年間。
何も対策をせずにその期間が過ぎてしまえば、患者から「未回収金の事実など知らないっ」と拒否されてしまうことで、回収できなくなってしまいます。
未回収金の処理は、3年が経過する前に行いましょう。
払ってくれない患者には内容証明書郵便から法的手続き
代金を支払わない患者に対して、どこの薬局でもまずは口頭で支払いを求めていることでしょう。
すると「今は持ち合わせがないから、次に来た時に払う」などと言い逃れをされ、結局支払ってもらえないということが多くあります。
そのまま時効を迎えてしまえば、まんまと逃げられてしまうことでしょう。
そうならないための対策を解説します。
強制力はないが効果がある内容証明書郵便
内容証明郵便は、誰が誰に対して、いつどんな内容の手紙を投函したのか、を証明してくれる郵便です。
これを活用すれば、未回収金の督促を行ったことを証明することができます。
とはいっても、内容が証明されるだけであるため、患者が認めなければ何の意味もありません。
手紙が来たことで患者が支払いを行ってくれれば良いのですが、そうならない時には、法的な手段に出るしかないでしょう。
ちなみに、この内容証明郵便は法律上の「催告」とみなすことができるため、時効成立間際に行うことで、時効成立を6カ月間だけ猶予することができます。
催告をしてから6カ月以内に裁判手続きをすれば、時効は成立しなかったことになるのです。
一部分だけでも支払いをもらえれば、時効は延長される
時効の成立は、債務の状況を債務者が認めない状態のままでなければいけません。
つまり、債務者(代金を支払わない患者)が支払っていない代金があることを認めれば、時効は成立しないのです。
これを債務の「承認」といいます。
未払い金を証明するために確実なのは、文書で未払い金について承認してもらうことです。
こちらで作成した請求書など、支払いを求める文書に直筆で署名してもらうと良いでしょう。
こういった文書の作成を拒否する患者の場合、未払い金の一部だけでも回収できれば、未払い金があることを認めたとみなすことできます。
なお、ここで注意しなければいけないのが、患者が未払い金を承認したとしても、時効が消滅するわけではないという点です。
承認を受けた日から換算して3年間で再度時効が成立する条件を満たしてしまうため、気を抜かずにしっかり対策していきましょう。
最終手段の少額訴訟や督促手続き
どうしても患者が代金を支払わない時には、法的手段に出るしかありません。
支払いを求める法的な手続きには「訴訟、調停、督促」の3種類があります。
訴訟は裁判によって、紛争の解決を図ります。
金額が大きい場合には民事訴訟となりますが、60万円以下の訴訟の場合には、審理が1回で手続きも簡素な「少額訴訟」を利用する方が良いでしょう。
弁護士を介さずに手続きをすれば、印紙代程度で手続き可能です。
調停は裁判所に仲裁に入ってもらい、話し合いで解決する方法です。
ただし、これには相手が友好的である必要があります。
3年を経過するほど支払わない患者が相手では、あまり有効ではないでしょう。
最後に「督促」ですが、これは書類審査のみで裁判所が支払い命令を出すもので、審議は行われません。
ですので、代金未払いの患者が異議申し立てをしない限りは、法的な拘束力をもって支払いを求めることができます。
あや
きよみ
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まとめ:実際のコストと労力を考えると、あきらめるのも選択肢に。
支払いを拒否する患者に出会うことは滅多にありませんが、実際に遭遇した時には、その対処には大変な労力がかかります。
いつも来局している患者さんなら、代金を回収するチャンスが多くあり、問題となることは少ないものです。
問題になるのは、初来局で支払いを拒否し、そのまま来局しなくなる患者です。
回収作業のために患者自宅を訪問したり、場合によっては法的な手続きを行ったり、日常業務に差し支えてしまうこともあるでしょう。
法的手続きにかかる費用は、最低で1000円。手続き方法を弁護士に相談をすれば、相談費用1回5000円程度がかかります。
さらに、弁護士に手続きをお願いすれば、金額が大きく跳ね上がります。
これらの労力と費用を考えれば、回収をあきらめることも選択肢にいれても良いのではないでしょうか。
ただし、未払いは絶対に許さないという強い姿勢をみせるのであれば、未払い金額の多寡にかかわらず、確実に行動を起こしていきましょう。