2014年に臨床検査技師等に関わる法律に基づく告示が改正され、今まで違法とも合法とも言われたまま宙ぶらりんだった調剤薬局での血液検査が、法的に認められたことをご存知でしょうか?
ただ薬を貰う場所だった調剤薬局が、名実ともに医療提供施設へと変化していく状況の中、実際に血液検査を実施している薬局はまだ少数です。
今回は、薬局における血液検査のポイントについて、具体的な手続きを含めてお話ししていきます。
あや
きよみ
モンブラン
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健康志向の高まりから治療から予防へ意識が変化
セルフメディケーションなどの推進から、日本の医療は治療から予防に意識が向かっています。
自分の健康を管理する習慣が根付いてきたことにより、健康志向が高まって一人一人が予防医療を実践するようになったのです。
この動きは増大する医療費の削減効果も期待できるため、政府も積極的に推進する体制を取っています。
その一角を担う可能性が、今後の調剤薬局に秘められていると言えるでしょう。
自分の状況を詳しく知りたいけれど、病院に行って検査するのは気が引けるという感覚は誰しもが抱くものであり、病院よりも格段に敷居が低い調剤薬局で検査を実施できるとなれば、確実に客足を伸ばすことができるようになります。
血液検査を実施するとなれば多少面倒な手続きや顧客対応をすることになりますが、そのデメリットもかかりつけ薬局として認識してもらえるメリットに比べれば小さなものです。
時代の移り変わりとともに、薬局の立場も変わっていくこととなるでしょう。
自己採血検査を提供するサービス
血液検査を行う主要薬局
- ウェルシア薬局
- ツルハドラッグ
- キリン堂
- ハックドラッグ
- マツモトキヨシ
- クリエイトエス・ディー
- くすりの福太郎
- サーバ
- ダックス
※各薬局の一部店舗(ウェルシアに限っては多くの店舗で血液検査を実施)
薬局での血液検査が法的に認められましたが、実際に実施している店舗はごく少数です。
手続き上の事務作業や病院との関係性など、気軽に手を出せない実情もあると考えられますが、実施している多くは大手調剤チェーンやドラッグストアチェーンなのです。
今まではグレーゾーンだったものですので、問題ないと言われても実行には移しづらい心理的な要因が働いているのかもしれません。
事実、血液検査といっても薬局内に検査室を作る必要があるわけではないため、それほど難易度が高いものではありません。
採血キットさえ用意しておけば、検査や結果の通知などを代行してくれるサービスも用意されているくらいですので、その敷居は高くはないと言えるでしょう。
薬局以外でも自己採血検査が活発に
血液検査ができるのは、薬局だからという訳ではありません。
条件さえ満たしていれば、他の施設でも血液検査ができるようになったのです。
医療・介護に携わる企業・施設では、集客効果もあるために血液検査が活発に行われるようになりました。
たとえば、薬局以外でもケアプロ株式会社が予防医療事業としてセルフ健康チェックをおこなっています。
過去には血液検査をするための施設は、病院や診療所、衛生検査場の届け出が必要でした。
しかし、自己採血であって診断に用いるための採血でないのなら、それらの施設以外での検査は可能ではないかという法的な解釈もあり、管轄する地域の保健所によって血液検査の実施の可否が変わるということがあったのです。
それが2014年に臨床検査技師等に関わる法律に基づく告示が改正されたことにより、はっきりと薬局での血液検査が認められることとなりました。
厳密には薬局ではなく、検体測定室という名称の施設でのこととなりますが、検体測定室として届け出を出すことで、薬局での血液検査が可能であることに変わりはありません。
検体測定室となるためには施設基準や届け出などの条件はありますが、条件をクリアしていれば自己採血による血液検査をすることが認められたことで、様々な企業で活発に行われるようになったのです。
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きよみ
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通常の健康診断と同様、13検査項目が可能
薬局における自己採血検査では、13項目について検査が可能となっています。
これは、通常の健康診断において実施されている項目と同じものであり、自身の状態を測る上では最も一般的で重要なものなのです。
検査項目の数によって価格が定められていることが多く、たとえば「じぶんからだクラブ」を活用している薬局では、検査の内容を13項目と8項目から選択していくことになります。
13検査項目
- 血液脂肪検査
- 総コレステロール
- LDLコレステロール
- HDLコレステロール
- TG(中性脂肪)
- 肝臓関連
- ALP
- AST(GOT)
- ALT(GPT)
- y-GTP
- T-BIL(総ビリルビン)
- 腎臓関連
- クレアチニン
- BUN(尿素窒素)
- 尿酸
- UA(尿酸)
- 糖尿関連
- ヘモグロビンA1c
血液検査で広がる薬局内での業務
薬局において血液検査を行うことは、セルフメディケーションを実施していく上で非常に有用なことです。
それをもとに患者が健康を考えるサポートをし、健康を増進するためのお手伝いをしていくことが求められます。
ただし、実施しているのは診断に使用しない自己採血であることを忘れてはいけません。
診断ができるのはあくまでも医師だけですので、薬剤師の職能の範囲でお手伝いできることをしていく必要があるのです。
血液検査の具体的な手続き
薬局において血液検査を実施するために必要な手続きについて、具体的に解説していきます。
下記に記載しているものは、開設のための最低限度の法的な届け出であり、このほかにも、検体測定室ガイドラインによる標準作業書、作業日誌、作業台帳(20年保管義務)、感染症予防マニュアル、検査実施説明書などを用意することが求められ、さらには定期的なスタッフへの研修を実施することが必要です。
検体測定室の届け出
まずは検体測定室開設の届け出をする必要があります。
開設する7日前までに検体測定室開設届出書と運営責任者・精度管理責任者の免許の写し、検体測定室の場所を明らかにした施設の図面を厚生労働省医政局地域医療計画課医療関連サービス室長宛に提出することによって、申請が可能となります。
ちなみに、検体測定室の運営責任者は、医師・薬剤師・看護師・臨床検査技師のいずれかである必要があり、精度管理責任者は、医師・薬剤師・臨床検査技師のいずれかである必要があります。
管理医療機器の販売・貸与業の届け出
自己採血に用いる針等は、管理医療機器と区分されています。
そのため、検体測定室の届け出とは別に、管理医療機器の販売・貸与業の届け出をしなければいけません。
ただし、調剤薬局である場合には、既に許可を受けているというみなし規定があるため、届け出は不要です。
自己点検を提出
検体測定室を開設して後、40日以内に自己点検の結果を提出しなければいけません。
厚生労働省から発行されている自己点検表に必要項目を記載し、提出することが求められます。
内容は法令遵守されているか、手順は問題ないかなどを確認するものとなっています。
検体測定室の施設基準
検体測定室とすぐにわかるスペースを用意し、プレートなどを掲げて場所を周知する必要があります。
個室にする必要はありませんが、仕切りなどで区切った専用スペースを用意しましょう。
周辺の医療施設に検体測定室を設置したことを周知して連携を求め、血液を取り扱うため、バイオハザードマークを活用して廃棄物の処理を行い、廃棄業者も都道府県知事の許可を受けた感染性廃棄物処理業者に委託する必要があります。
結果の判断は受検者自身が行うコト!
薬局が実施する血液検査は、診断に用いない目的の自己採血である必要があります。
もともと診断を行うことができるのは医師だけだと医師法にも明記されていますので、どんな側面から考えても薬剤師が医学的な判断を行うことは認められていません。
数値をもとに何らかの疾患を指摘することはもちろん、健康だと言うことも認められません。
検査項目の概要を伝え、どういった内容の検査であるのか、基準値はいくつであるのかを伝えることは許されているので、それをもとに受検者自身に結果を判断してもらわなければいけないのです。
薬剤師が注意すべきポイント
- 採血は受検者自身で全て行う
- 数値結果をもとに診断をしてはいけない
- 患者に対して「健康ですね」と言ってはいけない
- 医薬品やサプリメント、健康食品など物品の購入を勧めてはいけない
- 特定の医療機関を紹介してはいけない
参照:検体測定室に関するガイドライン、日経DI2014
薬局での血液検査が認められたとはいえ、その内容は非常に限定的であり、制約も多く存在しています。
もっとも重要なものは、検体測定室での診断は絶対に認められていないというものです。
その結果をもとにした食品やサプリメントなどを勧めてもいけませんし、基本的に検体測定室を訪れた方には受診勧告をする必要がありながら、特定の医療機関を勧めてもいけません。
きちんと注意しておかなければ、何かの拍子に法律を犯してしまう危険性が非常に高いと思われるため、ガイドラインを熟知して細心の注意を払っておきましょう。
病院で行う検査と比べると誤差が出ることも
薬局で使用される検査キットは少量の血液から体の状態を診断することが可能で、利便性の高いものです。
これはメリットではあるのですが、逆にデメリットにもなってしまいます。
少量の血液で簡易的に検査するもののため、病院の検査結果と比べると多少なりとも結果に誤差が出てしまうのです。
簡易検査で問題のある数値が出たとしても、病院での検査では全く問題がなかった場合もあれば、逆に簡易検査で問題のない数値だったとしても、病院の検査では問題が見つかることもあります。
実際にはそこまでの誤差がでることは稀ですが、その可能性についてはしっかりと認識しておく必要があるでしょう。
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まとめ:薬局の未来が変わる!かもしれない検体測定室と自己採血検査
調剤薬局は法律的には医療提供施設と明記されましたが、その実質が伴っていない部分があることを現場では常に実感してしまいます。
患者の中にはしっかりと薬剤師の話を聞き、治療に専念している方がいる一方で、反対に薬剤師はただ薬を用意しているだけの存在で、話を聞く価値はないと考えている患者もいるのが本当のところ。
この血液検査がどこの薬局でもできるようになれば、健康相談をするのはまず薬局で、そこから病院に向かうというルートが構築できるかもしれません。
そうなれば、医療の中心として薬局が機能する未来が生まれるかもしれないのです。
日々の調剤業務で忙殺される薬剤師ですが、この新たな制度を活用して、未来を創造してみてはいかがでしょうか。