薬剤師のスキルは薬局内に限らず、災害時や発展途上国での医療においても重要なものとなります。
情報収集するためのインフラが途絶えている状況では、薬剤師の持つ医薬品の知識は非常に貴重なもので、人々の命を守る上での欠かせないものと言えるでしょう。
ですが、そういった状況にある地域であるほど、薬剤師が不足してしまっているのが現状です。
今回は必要とされている地域に薬剤師のスキルを提供するためのボランティアに関してお話ししていきます。
あや
きよみ
モンブラン
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東日本大震災のボランティアに参加した薬剤師の田村さん
そんな中薬剤師のボランティア募集の話を友人から聞いて参加しようと決意。
勤めている薬局の施設長の許可をもらい、薬剤師会を通してボランティアに応募し、4月と5月に短い期間ですが2回ボランティアに参加しました。
派遣先は、福島県郡山市にある「ビッグパレットふくしま」で、当時施設内には2000名以上の被災者がいる福島最大の避難所でした。
そこで、わたしは診療所での調剤と見回りによる健康管理、医薬品の仕分け、在庫管理に携わりました。
在庫としてある医薬品の中から処方薬を提案し薬の残数を常に把握、慢性疾患を持つ被災者には普段飲まれている薬の代替薬を提案しました。
避難所は、ダンボールで仕切った狭いスペースで、立てば隣の方のスペースが丸見えでプライバシーなんて何もない状況でした。
こんな状況だからこそ寝れない日が続き肉体的にも精神的にも追い詰められ、ストレスと衛生状態が良好な環境ではないため、下痢や嘔吐の症状を持つ患者がとても多かったです。
この経験を機に、薬剤師としてどのように社会と繋がっていくべきかを常に考えながら業務を行うように意識が変わりました。
日本は地震大国であり、大なり小なりほぼ毎日どこかで地震が起きています。
そんな日本の中でも、記憶に新しい地震による大災害が東日本大震災です。
東日本大震災の当時は、災害の中心部では電気や水道などのインフラも止まってしまい、復旧しないまま何日間も経過しました。
当然医療体制も混乱を極め、電子媒体に記録されていた診療記録も閲覧することができません。
そこで重要になったのが、薬局主体で行われていたお薬手帳と薬剤師の持つ医薬品の知識です。
医療スタッフも限られており、医師も専門分野以外の治療を行わなければいけない状況で、薬剤師の持つ知識は大いに役に立ちました。
同じ日本とは思えないような過酷な環境ではありますが、そこで働くことで医療者としての薬剤師の本分を思い直した薬剤師がたくさん誕生したのです。
国際ボランティア活動に参加経験のある薬剤師の白根さん
活動内容は主に、感染症、孤児医療のプログラム。具体的には、薬品の管理や発注、現地スタッフの教育や業務の見直しを行いました。
基礎教育がいきわたっていないため、ありもしない民間療法が一般的になっており、医療に対しても様々な噂が広まっていました。
民間療法といえば、聞こえはいいですが、実態は霊的信仰に頼ったものです。しかも、病気は魔術が引き起こしていると本気で信じている方も多いんです。
だからこそ、処方した薬の副作用は伝えないこともありました。副作用を説明してしまうと服用をやめてしまうこともあり得たからです。
この経験から、単なる資金援助ではなく、先進国からより多くの人的支援の必要性を感じました。
実際に資金援助をしたとしても、効率的な援助方法を行ことができない上、政府高官の私服を肥やすことになります。
カナダから参加していたベテランボランティアの方が「政府も警察も信頼すべきではない、私たちが手の届く範囲で懸命に医療貢献する」という言葉が印象的でした。
薬剤師の行う国際ボランティアは、いまや一般に知られる存在となりました。
ですが、実際にどのようなことを行っているのか、その実態は知られていないままです。
善意の存在としての綺麗なイメージが先行し、泥臭い本来の姿が伝わっていないのです。
発展途上国における医療では、電気や水道などのインフラが整っていない中、限りある物資で人々の生命を守っていかなければいけません。
日本のように衛生管理がされていないため、感染症の危険に常にさらされ、治安も決して良くはありません。
医療に関する知識水準も低く、治療の同意を得られない環境も存在します。
自分の命の保証もされず、それでも人のために働くことができる薬剤師が必要とされているのです。
日本での常識・普通は他国では常識・普通ではない
国際ボランティアとして働くためには、まずは日本の常識から逸脱できなければいけません。
国ごとに使用される医薬品やその用量設定は全く異なり、治療におけるスタンダードも異なります。
あくまでも日本における薬剤師の経験は、日本の法律によって作られたものなのです。
国際ボランティアとして活躍するためには、その国の法律に準じた医療の提供が不可欠。日本の常識に縛られず、環境に順応できる柔軟な姿勢がなにより重要になります。
治安が悪く紛争のある地域の可能性も!
国際ボランティアが求められている地域は、過ごしやすくて治安が良い場所ばかりではありません。
薬剤師などの医療スタッフが不足している地域に向かうわけですから、むしろ、通常は近寄ることもはばかられるような地域に優先して派遣されていくことになります。
治安が悪い場所では外出も控える必要があり、派遣先の病院に缶詰状態が当たり前となります。
何らかの用事があってやむを得ず外出するとしても、たとえそれが近い距離だとしても護衛と一緒に出歩く必要があるのです。
日本では当たり前だったプライベートも自由もないというのは、強いストレスとして襲いかかります。ストレス耐性が高くなければ、精神的な負担を抱えてしまう可能性も捨てきれません。
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ボランティア休暇制度を導入する企業が増加
現在の日本では、ボランティア活動をすることを理由にした休暇が認められている企業が少数ながら存在しています。
これは東日本大震災をきっかけにして、ボランティア活動への関心が高まったために導入された制度であり、徐々にその数は増加の傾向にあります。
薬剤師が働く職場は、医療を提供する場所であることがほとんどです。
医療提供施設として社会貢献を求められている現代では、ボランティア活動への参加を促進するための休暇制度が増加していくのは、社会動向として当然のことといえるでしょう。
薬剤師が働く職場の場合、サンドラッグや総合メディカル株式会社、ファーマライズがボランティア休暇制度を導入しています。
国内外のボランティア団体
ボランティア活動をするためには、国内外のボランティア団体に所属して活動するのが一般的です。
団体に所属しないという選択肢もありますが、個人的にボランティア活動のために現地に赴くというのは、あまり現実的な選択ではありません。
個人でボランティア活動のために現地に向かったとしても、薬剤師としての専門性を発揮できる現場で活動できる確率は限りなく低く、誰でも従事できるような活動を任せられるのが関の山です。
薬剤師としての職能を発揮して有意義に働くためには、ボランティア団体を利用していきましょう。
ボランティア団体にも複数の種類があり、たとえば生活費を支給するがそれ以外には完全に無給である団体や、活動期間に少額ながら給与を用意している団体、現地での生活水準に即した生活費を支給する団体などが存在します。
なんとなくで所属する団体を選ぶのではなく、自分の希望するスタイルに合った団体を選んでいきましょう。
国境なき医師団(MSF)
国境なき医師団(MSF)は民間のボランティア団体です。
医師以外でも医療スタッフが募集されており、薬剤師のボランティア志望者も募集されています。
MSFでは短期間の派遣が中心となっており、期間に応じて給与の支給が行われまので、参加しやすい団体だと言えるでしょう。
ただし、渡航費用などは自分自身で捻出することが基本となりますので注意しなければいけません。
薬剤師の応募条件
- 2年以上の勤務経験
- 新人などへの指導や教育業務の経験派遣期間6ヵ月〜1年間
活動中の待遇
日本円で直接日本の銀行口座に支払われます。
- 海外派遣期間が積算1年を超えるまで:171,505円/月
- 海外派遣期間が積算1年を超えた後は昇給となり、200,408~575,862円/月
※派遣されるポジションや過去の経験等を加味した計算に基づいて算出されます。
青年海外協力隊(JICA)
青年海外協力隊(JICA)は、日本政府が主体になって行っているボランティア団体です。
発展途上国に向けて技術者を派遣する事業を行っており、医療関係者以外にも、インフラ整備のための技師なども派遣の対象となっています。派遣期間が長期間にわたるのが特徴の団体です。
薬剤師の応募条件
要請内容にもよって変わりますが、基本的に実務経験3年以上を求められることが多いです。
活動中の待遇
- 国ごとに定めた金額(1ヶ月300~760米ドル程度)を支給
- 日本と受入国との往復にかかる赴帰任時の旅費(航空賃・交通費・日当・宿泊費等)は、JICAが負担
引用:青年海外協力隊(JICA)
AfriMedico
AfriMedicoは民間のボランティア団体であり、アフリカに配置薬の制度を広めるための活動を行っています。
理事の中には薬剤師もおり、医薬品を中心にしたボランティア活動を実施しています。
現地に赴いて医療に関わる啓もう活動を行う他にも、日本国内にてアフリカの状況を伝える仕事や、薬事申請の業務を行う仕事も存在します。
薬剤師会
- 日本薬剤師会
- 日本病院薬剤師会
- 日本災害医療薬剤師学会
薬剤師にとってはもっとも身近な団体である薬剤師会も、ボランティア活動を提供しています。
基本的には国内において、災害があった地域で薬剤師の職能を発揮することでボランティアを行います。
1週間程度のごく短期間の派遣であり、その期間の給与などの支給はありません。
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まとめ:ボランティア活動を実施することで人生観が変わる!
薬剤師が日頃携わっている業務では、医療を提供できることが当たり前に感じてしまいます。
薬剤師として働いているうちに、いつの間にか薬剤師になった頃の気持ちが薄れてしまうのです。
ボランティア活動に従事することで、その薄れた新鮮な気持ちが戻り、日々の業務に新たな景色を見いだすことができるようになります。
ボランティア活動を行うことで、人生観が変わった薬剤師もたくさん存在するんです。
マンネリとなった薬剤師業務に悩んでいるのなら、社会のためにも自分自身のためにも、是非ともボランティア活動を実施してみてください。